《クールな彼は欲しがり屋》
「....ひどいまぬけ面だな」
私の顔を見て、凄く嫌そうな顔を見せた沢田課長。
「まぬけ....ひどいです」
ぐさっときた。
面と向かって『まぬけ面』だなんて今まで言われたことがない。仮にそうだとしても、本人には言わないのが最低限の礼儀では無いだろうか。
「口をぱくぱくさせてる女があまりにも『まぬけ』だから、『まぬけ』と言ったまでだ。別に悪口じゃあない」
まぬけという言葉が悪口じゃないなら、誉め言葉?
そんなのあり得ない。
「先に戻ります」
頭を下げ沢田課長の横を通りすぎようとしたときに腕を掴まれた。
「春川慶子」
突然名前を呼ばれて、ビックリして顔を上げ沢田課長を見た。
「随分古くさい名前だな」
古くさい?
確かに慶子って名前は、流行りではない。だが、何故もっと言葉を選べないのだろう。古風だなとか、和風だなとか。
営業課長のくせに言葉のチョイスが悪い。こんなんで仕事に影響しないのだろうか。
「古くさくて、すみません」
「悪口じゃあない」
まただ。さっきの「まぬけ」といい、今の「古くさい」といい、最後に「悪口じゃない」と言えば何を言っても許されると思っているっぽい。
でも、ここで怒ってみたところで私には何のメリットもない。なんせ、相手は上司だからだ。
「悪口じゃないなら、結構です。腕を離してください」
私の言葉を聞いていないのか沢田課長は、更に私の腕を強く引き寄せた。
ぐっと縮まった距離。すぐ目の前に沢田課長の顔があった。
「あんたに返してもらいたいものがある」
沢田課長の高い鼻が私の高くない鼻にぶつかりそうなくらいの位置にきていた。