《クールな彼は欲しがり屋》
「は?」
またもやキョトンな顔をしている。
「お釣りですよ。今、一万円札しかなくて」
「なんで釣りがいるんだ」
驚いた。お釣りが出ないってことだろうか。
「え?割り勘でも一万円以上するんですか?あのホテル」
「あのホテル?」
「はい、沢田課長が返せって言ってたのは、あの夜のホテル代でしょう?」
「な、なんだと?」
自分から言い出したくせに驚いた顔を見せる沢田課長。
「今の時代、ホテル代を男が持つとか決まってませんし。一夜限りの男女の場合、どちらが払うとか、なおさら微妙ですよね。やっぱり割り勘にするのが妥当ですよね」
「ホテル代?」
ここは真面目に頭を一度下げた。
「はい。すみませんでした。先に帰ってホテル代を踏み倒すような真似をして。でも出来たらお釣りはもらいたいんです。みみっちいですか?」
みみっちいですか?と聞いたのは多少嫌みも含んでいたかもしれない。
一年もたってホテル代を請求されるなんて正直思ってなかった。ホテル代を男が払うものだと昔かたぎに考えていた私も浅はかだった。
サイドテーブルか枕の下にでも、お金を置いてくるべきだっただろうか。
でも、そんなことをしたら、私が男を買ったような気分になりそうだし、仮に本当に買ったのだとしたなら、もっと支払わなければならなくなりそうだ。
ホストクラブに通う有閑マダムでもあるまいし。
都会で独り暮らしをしている私にとって、一万円はスゴく大層な出費だ。
そのへんの事情を少しは理解してほしい。
「あんた....俺が返してもらいたいものが、ホテル代だと本気で考えたのかよ」