《クールな彼は欲しがり屋》
「はい。他に借りているものも思い付かなくて。他に借りているものが、まだありました?」
思い付かない。
あの夜、少しうとうとしてしまい目を覚ました時は、既に朝方だった。
幸いなことに次の日は休みで、ゆっくりしていても良かった。だが、やはり知り合ったばかりの男の隣で、恋人でもない男の寝息をききながら、再び横になれるほど私は肝が座っていなかった。
そっとベッドを抜け出し、着替え、忘れ物がないか確認してからホテルを出たのだ。
男の持ち物には一切触っていない。
「わたし、何も取ってませんよ!天に誓って本当に」
両手をあげてみせた。
まさか、窃盗の容疑が私にかけられているんだろうか。
沢田課長は、大きくため息をついた。
吐いた息が宙に白く舞う。
「あの、ちなみに何をなくしたんですか?」
「あんたは取った覚えが、まるでないんだな」
「はい。人のものには手を出しません。これは誓えます」
じっと目を見られていた。
探られている。私が嘘をついていないかどうか。
「あんたにその気がなくても、取られたんだ。本人がいってるんだから間違いない」
「でも、私じゃありませんよ」
「いや....間違いないね、あんただよ」
そう言い切って、沢田課長は私を人差し指で指し示した。