《クールな彼は欲しがり屋》
指をさされるような状況に置かれてみると、かなりゾッとする。
言うべき言葉が見つからずに、沢田課長をこわごわ見上げる。見上げた私の鼻先にピチャッと水滴が当たり私は思わず目を閉じ顎を引いた。
今度は、つむじのあたりに水滴が当たる。
「雨だ」
私を指さしていた手で沢田課長は私の腕を掴み
「話は後だ。どっか、適当な店にでも入って少し雨宿りしよう」
と言って私の手を引き走り出した。
「もっと速く走れ」
「無理ですよ、ヒールなんですから」
転んだりするくらいなら雨に濡れた方がましだ。
女に対して優しくない男は、モテないと知らないのだろうか。
きっとイケメンだから、苦労しないできたはずだ。
いや、違うか。
あの夜、沢田課長は振られたばかりだった。失恋経験者なら、経験から何かを学び、これからは女の子に気を使ったり優しくしたりするべきだと悟らなかったのだろうか。
辺りを見渡し、とあるビルの2階にあるbar的な雰囲気の店を見つけそこへ入った。
雨に濡れたコートは、店の人が「乾きやすい場所にかけておきますね」と言って預かってくれた。
カウンターに並んで座り、濡れたスカートや脚の辺りをハンドタオルで拭いた。
拭いていると、頭をポンポンとされた気がして顔を上げてみた。
ポンポンしていたのは、沢田課長で、濡れた私の髪をハンカチで拭いてくれていたのだ。
「ありがとうございます。大丈夫です。先に、ご自分を拭いてください」
沢田課長の斜めバンクの前髪がしっとり濡れていた。