《クールな彼は欲しがり屋》
沢田課長は私の横に来ると肩をガシッと掴み、窓際にあるコピー機のある方向へ体を向けさせた。

それから、私にしか聞こえないような声で呟く。
「まさか同じ会社だったなんてな。世間は狭いな」


頭をガツンと叩かれたような衝撃を食らった気分になっていた。

覚えてるんだ、この人も。

ベッドの上でお互いの体を重ねたあの日。私は泣きながら男の背中に爪を立てた。


一気に冷や汗が全身を伝う。恥ずかしさでいっぱいになっていた。

こんな偶然なんか、最悪過ぎて、どう対処すべきかもわからない。

「じゃ、コピーよろしく。終わったら....あー、和泉(いずみ)ちょっと」

「はい、なんです?」
椅子から立ち上がったのは、長身の男性社員だ。私より若そうに見える。

「異動してきた春川だ。俺は今からクライアントに会うから、お前が仕事振って」

「はい、わかりました」


ちらっと横目で私を見る課長の視線を感じた。
私を和泉さんに任せると課長は、ビジネスバッグを手にしてさっさと行ってしまった。

涙と一緒に無くしたはずの深い病んだ夜の思い出。

風邪でぶり返した熱が出たみたいに熱く息苦しくなっていた。

綺麗事では済まされない現実が私の前に突如現れた壁のように高くそびえていた。
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