《クールな彼は欲しがり屋》
「結局....最後までやらなかった女ってのが、あんたが初めてだった。つまり、『俺の初めての女』ってのは、俺がホテルまで行ってやらなかった『初めての女』って意味だ」
言い終わると、沢田課長はぷいっと前を向きビールをのみだした。
そんな意味の『初めての女』なんて。
わざわざ言わなくてもいいのに。
「意地悪ですね、沢田課長。わざわざ言わなくてもいいのに。ホテル代を払ったのに、最後まで出来なかったから私を恨んでるんですか?」
怒ると言うより悲しくなってきていた。声が思ったより震えている。
「泣くなよ」
「泣きたくもなりますよ。私だって好きで未経験やってる女じゃないんですよ。ずっと幼なじみに片思いしてただけで。あの夜、別にしても良かったんですよ私は。今日はなしって言ったの沢田課長の方ですからね!」
あの夜、濃厚なキスをしてコートを脱ぎ捨て、お互いに服を脱ぐ時間ももどかしいような雰囲気にまでなった。
カーディガンのボタンを外そうとしたら、先に上半身裸になった男が私の手を握り、優しくキスをしながらボタンをはずしてくれた。
でも、ボタンをひとつずつ、はずされるたびに私の泣き方が激しくなった。
「泣くなよ。すぐに忘れさせるから」といわれてカーディガンを脱がされたときには、確か号泣していた。
そこで手を止め、私を抱きしめてくれた男。
「大丈夫か」
と優しく髪を撫でてくれた。
震えて泣いたのは、失恋したからじゃない。怖いんだと私は男に告白した。