《クールな彼は欲しがり屋》
「そうじゃないです。違います」
沢田課長、もしかして一年間もそんな風に誤解してたの?
「俺自身が直接の原因じゃないんだな?」
確かめるように聞かれて、びっくりして涙もひいた。
ハンカチを握りしめながら、私は少し焦っていた。
もし、沢田課長が嫌で私がホテルから逃げるようにして先に帰ってしまったと今まで考えていたなら、私は大変失礼なことをしでかしたものだ。
それなりに沢田課長を傷つけていたことになるのではないだろうか。
「はい、もちろんです。私の中の問題で、決して沢田課長のせいじゃありませんから。むしろ、初めての相手だったら、沢田課長って好ましいタイプの男性だと思いますし」
「ふーん。好ましいタイプ....か。ところで」
少し白い歯を口元に覗かせた沢田課長。
私の方へ体を寄せ、耳元で
「今は未経験じゃなくなった?」
と唐突な流れで聞いてきた。
「なっ!」
何て言うことを聞いてくるのだろう。気づかいが全くない人だ。
「あれ、答えないつもり?」
「いいたくありません!」
「なんで」
「プライバシーの侵害です!」
「ふーん。その様子だと、まだ....みたいだな」
「は?ば、馬鹿にしないで下さい」
「馬鹿には、してない。逆に良かったと思った」
「はぃ?」
言っていることが良くわからない。
良かったって何?
不思議な気持ちで私は、借りたハンカチを使わずに沢田課長の前に置いた。
すると、沢田課長は、そのハンカチを受け取りジャケットのポケットにしまいこんだ。
「ラーメンを食べに行くと、俺は好物のチャーシューを一番後で食べるタイプ。あんたは?」
急にわけのわからない質問をしてくる人だ。