《クールな彼は欲しがり屋》
「チャーシューなら途中で食べます」
ラーメンを食べる時を思い出しながら答えた。
「汁いって、麺を食べ、途中でチャーシューって流れか」
「はい、たぶん」
「チャーシューは食べかけで、また麺に戻ったり汁飲んだりするんだろ?」
「はあ、おそらく」
答えなからも戸惑っていた。
食べる順序に細かくこだわる人なんだなと思えた。
「チャーシュー麺を食べてる途中で地震が来たら?」
「地震ですか」
突拍子のない例え話に正直驚いていた。
子供みたいな例えだ。
「食いかけのチャーシューは、そのままにして逃げるわけだな?」
「その時はチャーシューだけじゃなく麺も汁も食べかけになりますよね?」
「俺は食べかけで、そのまま逃げたくない。特に一番好きなチャーシューは、綺麗~に食べてから逃げる」
すごく力説している。
この人は、変わってると正確に認識できた。
「あの、この話ってなんなんですか?」
「つまり、俺は食いかけのチャーシューをそのままにはしないタイプだ」
自分を何とかなタイプだとか話す人は、あまり好きになれない。
私は足を組み替えてから尋ねた。
「えっと、結局何が言いたいんですか?」
「あんたを食いかけたままにしてから、ずっと今日まで悔やんできた。初めてだからな、食いかけのままになって音信不通になった女なんか」
食いかけ。
嫌な言い方だ。私とチャーシューは、同じなんだろうか。
「食いかけって、やっぱり怒ってるんてすか?」
「怒るって言うより」沢田課長は、私の肩へ手をおいて
「気持ちが悪い。フルマラソンの途中で捻挫しかけてリタイアしそうになった時より悔しいし、後味が悪い」と言った。
「はあ、後味悪い思いをさせてすみませんでした」
「わかってないな。何も謝れとか、責任とれとか、金のことを言ってるんじゃない」
「じゃあ、どうしろと?」
「リベンジさせてくれ」
私の肩に手をおき、沢田課長は真面目な視線を私に向けた。