《クールな彼は欲しがり屋》
「リベンジ?」
突然の申し出だった。
言葉が出て来ない。あまりにも突拍子がない提案だ。

「ああ。俺は、今まで生きてきて途中で諦めたものがないんだ」
私の目を見つめてくる沢田課長は、自信に満ちた男の顔をしていた。今まで諦めてきたものがないって話がまんざら嘘やはったりではない気がしてきた。

「だから、リベンジ....」

「あんたが未経験だと知ってたら、はじめから接し方は違っていた。だから、リベンジすれば....」

熱弁してくる沢田課長の手を肩から払いのける。

「しませんよ。リベンジなんかっ」


「それはダメだ。約束が違う」
沢田課長は頭を横に振る。

「約束?」

「あの夜、ベッドであんたを後ろから抱きしめながら『生まれ変わって、それからリベンジしよう』って言ったら、あんた『うん』って頷いたよな?」

あの夜のベッドの中で、ハグされたときに言われた『それから』に続いていた言葉が、まさかの『リベンジ』。
そんなの記憶にない。

「え、そんなの覚えてません」

「覚えてないだと?じゃあ、俺はどうなる?一生気持ちが悪いままだ。俺の人生で途中で諦めた唯一のものが....」

沢田課長は顔を歪めて心底嫌そうな表情を浮かべた。
「あんただなんて最悪だ」

「最悪だなんて、なんかひどい言い方」

私から視線を離し、前へ向いた沢田課長はカウンターに肘をつき何か考えるみたいにして掌で額を押さえた。

イケメン塩顔男の考える姿を横から眺めてみた。

かなり、いい。

鼻筋がいけてる。顎のシャープさも喉仏も全て私の好みだ。

出会い方が違っていたら、もしかしたら私は沢田課長に恋していたかもしれない。

< 37 / 106 >

この作品をシェア

pagetop