《クールな彼は欲しがり屋》
「じゃ、コピー終わったら次の指示出しますね」
和泉さんは温厚そうな人で、話し方もゆっくりしたテンポだ。
「よろしくお願いいたします」
「はい、よろしくお願いします」
頭を下げてコピー機に向かったものの、まだ私の心臓はバクバクとうるさく動いていた。
こんな偶然、漫画かドラマでしかないと思っていたのに。
ある意味貴重な出会い過ぎて、到底信じられることじゃない。
日本は、狭い。狭すぎる。
何故、二度と会わないで済むと思っていた人にまた会ってしまうんだろう。
信じたくない。
夢なら早く覚めてもらいたい。
思い切り自分の左手の甲をつねってみた。
いたっ!
すごく痛い。
どうやら、この恐ろしい偶然は夢ではなく現実のようだ。
わたしは、ガックリ肩を落としていた。
なんて、私はついてない女なんだろ。
ずっと、ついてない30年の人生だった。
そりゃ、いつも大抵ついてないから、ついてないことには慣れっこだ。
だが、慣れていても正直凹んでしまう。何故私だけが、こんな目に合うわけ?と、疑問にも思ってしまう。
そして、この先の私を考えると、今からいたたまれない気分になる。
これから先、良いことが私に一度でも訪れたりするんだろうか。
真剣に考えたら、暗くなってきた。暗くて先の見えないトンネルに頭から入ってぎちぎちにはまり、動けなくなってしまった気分だ。
今は余計なことを思い出したり考えるのは、やめておこう。そんな風に思いながら、コピー機から次々に出てくる紙をじっと見ていた。