《クールな彼は欲しがり屋》
「いえ、昨日が初めてです」
「そー、そうだとしたら、春川さん、あなたついてるわね」
「ついてる?どうしてですか」
「あの沢田課長が部下を誘った話なんて聞いたことがないんだもの。前代未聞よ」
「だから、それはお二人を沢田課長が気づかって」
「私と和泉くんなら、付き合ってないし、気を使われるような仲でもないんだけど」
「え」
沢田課長は、はじめから、私と二人であの夜についての話をしたかったに違いない。だから、和泉さんと佐野さんの仲について嘘を言ったのだ。
「やだ、やっぱりなんかあった?沢田課長と」
「いえっ!全然何もないです。あるわけがありませんっ!私と沢田課長に二人だけの秘密なんかっ!」
立ち上がってむきになって否定していた。
否定しすぎていた。
声も思いの外大きくなっていたようだ。
フロアにいたほとんどの人が私を注目していた。
「二人だけの秘密?」
何か言いたそうに私を見上げる佐野さん。
「え、あの違うんです」
焦って、どうしようもないパニック状態になった私。
どうしようっ!
余計になんかあったみたいな言い方になってたかも。
立ったままあたふたする私の目の前に、いつの間にか沢田課長が現れていた。