《クールな彼は欲しがり屋》
うっとり目を閉じていた私は、沢田課長の唇が離れたことも、しばらく気がつかなかった。


「そんな顔を会社でするな」
そう言われてハッとして目を開けた。

目の前には、取り澄ました顔をした沢田課長がいた。

「っ!だってあの、沢田課長がっ」

「俺がなんかしたか?」

「え」

しらばっくれるつもり?!

なんにもしてないように、さっぱりした顔して。
会社で私にキスなんかしたくせに。上司のくせに部下にキスなんか!


「春川、動揺がおさまったら、さっさと戻って仕事しろ」

「沢田課長っ」

「あ?何」

「やめてください。会社で....こんなこと」

「しない。正式に春川が俺の女になったらな」

「正式に?」

「ああ、リベンジって言い方が嫌なら」
沢田課長は、私に顔を近づけてきた。

「正式に付き合え」

「は?」
命令するみたいな口調で、あきれてしまう。あきれているのに、胸はドキドキしてときめいていた。

「答えは帰りでいいから。じゃあ、冷静な俺から先に戻る」

白い歯をみせた沢田課長を見るだけで胸がドキドキしてしまう。

私、変だ。

沢田課長に振り回されて多少おかしくなったみたいだ。

付き合え?

なんで、私が沢田課長と。






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