《クールな彼は欲しがり屋》
営業部のあるフロアへ戻ると、いきなり拍手が沸き起こった。

「え?」

「やっぱり、前から知り合いだったのね」と拍手をする佐野さんに迎えられた。


「はぃ?」
周りの状況が飲み込めないで、私はうろたえた。

「疎遠になってたけど、再会して恋の炎が再燃して、このたび正式にお付き合いするって、今、沢田課長から発表がありましたよ」と和泉さん。こちらも拍手している。

恋の炎が再燃?

私が戻ってくるまでのわずかな時間を使って皆を味方につけたの?

沢田課長の方を見ると、口角をあげて満足そうな笑みを浮かべている。

まだ、私、付き合うなんて言ってないし、返事もしてないのに。

明らかにムッとしている私に沢田課長は、気が付いたようで少し笑顔をひきつらせていた。

今頃、そんな顔しても遅い。勝手に動いて自分の好きなような状況にしてしまうなんて。どう考えてもやり過ぎだ。

「結婚するの?」
聞いてきた佐野さんに私は、「私には、わかりません」と返事をして椅子に座った。

「何かひとこどみたいね」

私には、他人事な話だ。
いない間に、勝手に付き合う事になったと言われているんだから。

「ひとごとです。私は、付き合うことを承諾してないんです」パソコンの画面にむかう私に佐野さんは近づいてきて小声で聞いた。

「え?でも、承諾してないけどそういう類いの話はあったの?」

「まあ、少しだけですけど」

「で、結局付き合いたいの?]

「え?まだ、わかりません。」


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