《クールな彼は欲しがり屋》
「お疲れ様」

佐野さんが先に席を離れると、あとを追うように和泉さんも「お先に失礼します」と言って急いでドアへ向かう。

「まだ、かかる?」

目を凝らしてパソコン画面を見ていた私のところに沢田課長が現れた。白々しく両手に紙のコップなんか持っている。


デスクにコーヒーの香りをさせているコップを置こうとする沢田課長に
「コーヒーは、いりません」と言った。

事実、コーヒーは飲めないわけじゃない。沢田課長に渡されたものを黙って飲みたくなかったのだ。

「そうか。それはそれは、失礼。春川は、温かい飲み物だと何が好きなんだ?」

「コーヒー以外です」

「そうか。待ってろ」
私のデスクに紙コップを2つ置いて、すぐにドアの方へ向かう沢田課長。


しばらくして、紙コップをたくさんトレーにのせて沢田課長がやってきた。

その頃には、パソコンの電源も落とし帰り支度も整え、私はコートを手にして立っていた。

「あれ、終わったのか」

「なんですか、それ」

トレーにのせてきた沢山の紙コップを覗くと、緑色や、ココア色、薄いベージュっぽい色に、琥珀色、色とりどりの液体が入って軽く湯気をのぼらせていた。

私のわがままに付き合って、こんなに沢山の飲み物を買ってきたのだろうか。

「お望みのコーヒー以外だ。好きなのを飲んでから帰れ」

「いりません。喉が乾いてないので」
勝手にこんなことしてくれても嬉しくない。余計に困るだけだ。


「そうか」

何の文句も言わずに、沢田課長はトレーを私のデスクの隣、佐野さんのデスクにおくと椅子に座り、黙って端からコップを手にして飲み始めた。



「全部飲むんですか?」

「....」


「お腹壊しますよ」


「......」

一杯目を飲み終えて二杯目に手をかけた沢田課長。

「お疲れ様」
そう言ってから、二杯目を飲み始めた。

無表情な顔をしている。頑固というか、なんというか。
せっかく買って来たんだから、飲め!とか言えばいいのに。何故何も言わないのだろう。




< 48 / 106 >

この作品をシェア

pagetop