《クールな彼は欲しがり屋》
「お先に失礼します」

私は、承諾していない。沢田課長と正式に付き合ってなんかいない。だから、これでいい。私は沢田課長とは何にも関係ないのだから。親しくする必要はない。

出入口のドアに向かいながらも後ろ髪を引かれていた。

せっかく私の為に、あんなに沢山コーヒー以外の飲み物を買って来てくれたのに。上司にたいして失礼なんじゃないだろうか。

私は、くるりと向きを変えて自分のデスクの方へ戻っていった。

沢田課長が近づいてくる靴音に気が付いたようで顔を上げた。

「よお、忘れものか?」

力のない笑い方に胸が苦しくなった。

私は自分の椅子を乱暴にひき、腰を下ろした。

「そうじゃありません。せっかくのご厚意ですからいただいてから帰ります」

おそらく緑茶らしき液体が入っているコップに手を伸ばした。
「いただきます。あちっ」

まだ、緑茶が熱くて舌を少し火傷した。

「大丈夫か?」

「大丈夫です」
今度は、ふうふうして冷ましてから口をつけた。

「なあ、本当は、何が好きなんだ?」

「そうですね。ココアとかですかね」

「そうか。わかった」

静かなオフィスに、私がふうふうしている音が目立って聞こえていた。
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