《クールな彼は欲しがり屋》

社食で同じ営業の人達と一緒にランチを食べていた。

和泉さんが
「春川さん、今夜予定あります?なければ歓迎会したいんですけど、どうでしょう」
と聞いてきた。同じテーブルいた人達に私は注目されている。私に注目しているのは、恐らく私の返事次第で彼らの今夜の予定が決まるからだ。

「なんかわざわざすみません。今夜でしたら特に予定ありません」
 
「良かった。じゃあ手配しときますね」
笑顔を見せ和泉さんは、箸を茶碗の上に置いてポケットからスマホを取り出した。すぐに右の指先を動かして何やら操作している。

「あの、歓迎会に...沢田課長は参加されます?」
気になって、何気ない風を装い尋ねてみた。

「沢田課長?どうかな」
首をかしげる和泉さん。

和泉さんの隣に座っていた女子社員の佐野さんが
「沢田課長は、いつも参加しないじゃない。部下との付き合いなんて必要ないと考えてる人だから」
と言いながらデザートについていたミカンゼリーの透明なフィルムの蓋を丁寧にはがした。明るいブラウンの髪をひとつにしている佐野さんは、常に背筋がピンと伸びていて姿勢も美しい。

「そうそう。でも、上司がいると気を使うから、いない方がかえっていいんじゃないかな」 
と男性社員の江波さん。大きめなフレームのメガネをかけていて、ドット柄の派手なネクタイを締めている。その外見から、なんとなく軽薄そうな感じに見える。

「お金だけは出してくれるから、こっちは助かりますよね」
と、端に座っているショートカットが良く似合う女性社員は、的場さん。私より、はるかに若そうな的場さんは明るく微笑んだ。

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