《クールな彼は欲しがり屋》
「誰かに会ったらどうするんですか?」
会社の廊下を私と沢田課長の靴音が響いていた。
「どうもしない。もう、みんなには公にした仲だからな」
「....まだ、承諾してないんですけど」
「いいのか?一夜を共にしておいて逃げた軽い女だといわれても?」
エレベーターホールには誰もいなかったが、声を潜めて沢田課長が聞いてきた。
「脅してます?」
「俺は、正式に付き合おうって言ってるんだから、俺は軽くないぞ。むしろ、責任感のある男だって言われるだろうな」
「そんな....」
確かに沢田課長だけが真面目な人になってしまう。本当に真面目なのは、私なのに。
下へ行くエレベーターのドアが開き、私と沢田課長はゆっくり乗り込んだ。
「悩むな。付き合ってみて嫌なら、その時に改めて断れ。それが、一夜を共にした男に対する最低限のエチケットだろうな」
うまい具合に言いくるめられた。
それでも他にうまい脱出案が浮かばないのだから、今のところは、沢田課長の案に同意するしかあるまい。
「わかりました」
「ん、これで晴れてカップル成立だな」
とてつもなく、こそばゆい。言っていて恥ずかしくならないんだろうか。
カップル成立だなんて。
やはり沢田課長は、私のはじめての彼氏、そう言うことになってしまうのだろうか。
複雑な気持ちで、私は沢田課長の横顔を眺めた。