《クールな彼は欲しがり屋》
「ああ、朝までだ」
繰り返して言われた。

朝まで。

なんて、意味深な言葉なんだろ。
一年前とは違う。あのときは勢いでホテルまで行ったが、今は、どうしても躊躇してしまう。

「あの、その日は門限が」

「なに?学生のつもりか。笑わすな」

「ですよね。はぁ....」
思わずため息がでてしまった。

「クリスマスを過ごすのが俺だと不満そうだな」
ムッとした表情で沢田課長は私を見た。

「い、いえ。そういうことじゃなくて。沢田課長は、イケメンだから、おモテになるんじゃ?だとしたら、私なんかよりも、クリスマスに沢田課長と過ごしたい美人が沢山いるんじゃないかと思いまして」

「いるよ、沢山」
クールな顔をして沢田課長は、当たり前みたいに言ってのけた。

「そ、そうですよね、それなら、私は遠慮しても全然構いませんので」

私はクリスマスに予定がなくても平気だ、むしろ、にわかカップルが一緒にクリスマスを過ごす方が気詰まりだ。

「ダメだ」

「え?」

即答されて私は沢田課長を不思議な気持ちで見つめた。

「勝手に決めるな」
眉尻を上げた沢田課長が、ぐっと顔を私へ近づけてくる。

緊張して息を止めた私。

そんな私に向かって、沢田課長は
「俺は今、目の前にいる女と今年のクリスマスは過ごす。他の誰でもなく、春川慶子っていう奴とな」

勝手に決めているのは、沢田課長の方だ。

何もフルネームで言わなくてもいいのに。
私は止めていた息を一気に吐き出した。


「そこまで私にこだわらなくてもいいのに」

「なんか言ったか?」

「いいえ。何も」

沢田課長は、本気だ。

本気でクリスマスにリベンジするつもりだ。

私は沢田課長の本気を感じて、そわそわして落ち着きない気分になっていた。

せわしなくシートに寄りかかってみたり、お尻の位置を動かしたりして、タクシー内の気まずい時間をやりすごしてた。








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