《クールな彼は欲しがり屋》
「ありがとうございました。あれっ?」
タクシーを降りてから、沢田課長へお礼を言おうとして私は身をかがめ後部座席を見ようとした。
すると、急に沢田課長から「どけ」と言われてしまった。

慌てて脇によけると、沢田課長がタクシーから降りてきた。

「降りるんですか?」
驚いて沢田課長を見上げた。

まさか、この人って、うちに寄るつもりじゃないよね。
そんなのは、絶対に無理!

「......」
ニヤリと笑った沢田課長は、タクシーの中へ首を突っ込み運転手に向かい
「少し待っててください」と言った。

私の前に立った沢田課長は、やはりかなり背が高い。

ずっと見上げていたら、首が痛くなりそうだ。

「挨拶が済んでないから」

挨拶?

「あ、お疲れ様でした」
頭を下げ、再び顔を上げると沢田課長は、左右におろしていた私の腕を、そっと掴んだ。

「?」

「お疲れ様、それと」
沢田課長は、掴んだ私の腕を引き寄せて私の体を優しく抱きしめた。

それから、耳元で
「好きだ」と言ったのだ。

「わっ、えっ、とっ」
自分でも何が言いたかったのかわからない。突然の言葉にドキドキしすぎて頭が回らなかった。

あたふたする私を見おろし、沢田課長は
「また....会えて良かった」
と言って瞬きを一度だけした。

驚異的。

瞬きさえもカッコいいなんて反則だ。口角を上げると私の顔に近づいてくる沢田課長の顔。

ぼぉっとして見上げていたわたしの唇に沢田課長は、唇をそっと合わせた。

なんて、柔らかい。

それが、今、おそらく間抜け面をしていたであろう私のキスの感想だ。


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