《クールな彼は欲しがり屋》
マンションの自分の部屋に入ってから、私は手洗いうがいを済ませて、冷凍庫をあけた。
中から、冷凍パスタを取り出す。
最近は週に二度は、冷凍パスタを食べている。今日はペペロンチーノ味だ。
自分でパスタを茹で、ミートソースやらカルボナーラやらを作る時もあるが、仕事で帰りが遅かった時や疲れているときは、もっぱら冷食に頼っている。
パスタだけでなく、冷凍牛丼や冷凍肉うどんなんかは我が家に欠かせないものだ。
冷凍室が冷蔵室より大きな冷蔵庫が欲しいと真剣に考えもしていた。
外側の袋をあけて、中袋は開けずに平たい皿に乗せてレンジでチンする。
その間、部屋着に着替えて椅子に座りスマホを眺めた。
「そうだ。葵に沢田課長のこと話したら驚くかな?」
私と同じく独り暮らしをしている葵。
おそらく葵も家に帰って寛いでいる時間だろう。
一年前、私を置いて帰った葵のせいで私は男と出会い、その男と再び出会うはめになったなんて、本当に出来過ぎたくらいの偶然だ。
しかも、相手の男は、異動した営業の課長だなんて。
「あら、慶子ぉ、最近どうしてたぁ?」
呑気そうな葵の声を聞くと、なんだか安心してしまう。
「それがさぁ」
私は、異動した営業にいた沢田課長のことを、なんと一年前の男と同一人物だったと話すと葵は、
「へー、良かったじゃない?」
と、またもや呑気に応えた。