《クールな彼は欲しがり屋》
「でも、沢田課長となら飲みたいな」
佐野さんは、独り言みたいに言ってからゼリーを口に入れた。


「うんうん。わかります~イケメンですもんね~沢田課長」
大きく頷く的場さん。

「酔ったりするのかな?沢田課長って」

「酔ってもあんまり変わらなそうじゃない。いつも通りクールなまんまでいそう」

「意外と違うかもしれませんよ。ゲラだったりして。ギャップ萌えですよ」

的場さんの言葉に、あの夜のことを思い出していた。

あの夜、わたしはある1人の男に出会った、キリッとした瞳のクールな印象の男だった。

でも、話をしているうちに無表情だった顔が段々柔らかくなり、声をたてて笑うまでになった。初めのクールな印象からは、あり得ないほどのギャップだった。何より私と話すのを楽しそうにしてくれて優しく見つめてくる男に、心の中の尖った部分が丸くなっていき、胸がきゅんとした。

親友の葵もうんざりしたくらいになる私の話を、頷きながら笑顔で聞いてくれる人が、まだこの世に存在していたことに感動していた。酔いながらもあの夜、私を救ってくれたあの男には相当感謝していた。

それまで私は、バカがつくほど生真面目だと周りからもバカにされていた。そんな私だから物心ついた頃から最近まで幼なじみに生真面目に片思いし、そのため貞操を守り続ける羽目にもなったのだ。全て生真面目さが元凶だ。


生真面目な私が、初対面の、それも名前さえ知らない男と一夜を過ごしたのは、まさに青天の霹靂だし、今思うと恐ろしい話だ。

いくら、長年片思いしていた幼なじみに振られたからと言って、見ず知らずの男と一夜を過ごしていい理由にはならない。しかも、男性経験は未経験だったのにだ。

あの夜は、生真面目さが災いし完全にどうかしていた。

酒のせいには出来ない。

記憶は、この通り一年たった今も鮮明だ。相手の男の顔も......。



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