《クールな彼は欲しがり屋》
「そうかなぁ」

「そうよ。そろそろ、本当の恋愛を楽しんでみてもいいでしょ。っていうか、始めるべきよ」

「でもさ、あの人、上司だし」

「だから、何?」


「い、だってダメになったら会社に行きづらいでしょ」

「そんなのさ、ダメになった時に考えてよ。全く、慶子は始める前から心配ばっかり」

「だって、付き合った経験もないし。どうすればいいのかわからないから」

「いい年をして恥ずかしい女だねー。『どうすればいいかわからないから』なんて、この年で言っても可愛くないからね」

「本当にわかんないんだもん。年は関係無い」

「何でも初めての時は、わかんないもんよ。仕事もそうでしょ。新人は、何もわからない所から始めるの。慶子は、今、新人と同じ立場よ」

「新人?」

「そ、『本当の恋愛』の新人よ。スタートラインに立ったばっかりの新人よ」

レンジが出来上がりのサインを示して電子音を鳴らした。

その方向を見ながら、「新人」という言葉に過去の自分を思い出していた。

< 61 / 106 >

この作品をシェア

pagetop