《クールな彼は欲しがり屋》
翌日の出勤時、会社のエレベーターホールにいる沢田課長を見つけた。
うわっ、ど、どうしよう。
背が高いせいで沢田課長は、エレベーターを待つ集団から頭ひとつ分くらい飛び出ていた。
やっぱり、ここはすぐに挨拶した方がいいかな?
いや、でも無理にここでしなくても上に行ってからでもいいんじゃないかな?
たくさんいる人をかきわけてまで、沢田課長の近くへ行き挨拶をする必要はあるまい。
エレベーターは、左右には三つずつある。
沢田課長のいる場所は、一番奥だ。
私は、入り口から近い場所の列、後方へ並びエレベーターを待つことにした。
次々にエレベーターが到着し、待っていた人たちが乗り込んでいく。
私は無理に混んでいるエレベーターへ乗るのをやめ、次のエレベーターが来るのを待つことにした。
人がまばらになったため、エレベーターの前に進もうとして、やがて気がついた。
やだっ、沢田課長って、まだ乗ってなかったんだぁ。
奥の方にいた沢田課長が、まだエレベーターホールにいたのだ。
よくみると、スマホを耳に当ててなにやら話をしていた。
あっ、たぶん、電話してたから乗らなかったのね。
話しながらエレベーターの前を離れ沢田課長がこちらへ向かってくる。
やばっ、ここはまる見え。隠れるところもないし。
やけにドキドキ、そわそわしていた。
あ、焦るな。心配ない。
相手は会話中だ。頭を下げる程度の挨拶しとけば間違いないだろう。なにしろ、ここは、会社だし。上司だし。
でも、付き合うとか話をして、キスなんかをした仲でもある。身近な人には、私のことを『俺の女』みたいに公言した人だ。
それに、昨日、なんたか付き合うような話になった気がする。
ならば、会社でもオープンな仲でいるべき何だろか。オープンな仲で?それってどうすればいいのかわからない。
いや、それより沢田課長は、本当に私と付き合うつもりなんだろうか。一夜あけてみたら、意外と気が変わったとかいい出すかもしれない。
なんだかんだ考えていたら、スマホを耳に当てている沢田課長と目がばっちり合ってしまった。
「ぁ、おはようございます」
頭を下げた私の前に立ち止まり、沢田課長は、口角をきゅっと上げた。
「....時間変更の件承知致しました。....はい、では失礼致します」
沢田課長は、電話相手にそういって耳からスマホを離した。