《クールな彼は欲しがり屋》
エレベーターの中で隣に立っている沢田課長をちらっと見上げてみた。

下から沢田課長の喉仏を見上げて、ごくりと唾を飲み込んだ。

それから、下の方に向いてみた。

沢田課長は、何も持っていない。
やはり、今出勤してきたというわけではなさそうだ。


20階へ到着し、エレベーターを降りてから先に降りた沢田課長の背中に向かい「ココア、ありがとうございました」とお礼を言った。

立ち止まり、くるっと振り返った沢田課長は、
「ついでだったから買っただけだ」
と怒ったように言った。

へんな人。お礼を言っただけなのに。
なんで?
何を怒ってんの?

首をひねりながら、沢田課長に続いて営業部へと歩いた。

途中、自販機が目に入り、何げなく眺めて視線を止め、ついでに足も止めた。

あら?

ここの自販機は、飲み物がコップに注がれて出てくるタイプのものだ。先日、沢田課長がトレーにずらりと紙コップに入った飲み物を持ってきたことがあった。あのときは、恐らく、ここの自販機を使ったはずた。

ずらりとラインナップされた飲み物の種類の中にココアのボタンがあった。

売り切れ。

ココアの文字の下に赤い文字で『売り切れ』と表示されていた。

ココアだけが売り切れている。

私は、前を歩く沢田課長の背中へ視線を向けた。

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