《クールな彼は欲しがり屋》
「警察の真似事か?それとも探偵きどり?どっちにしても俺がやることに口を出すな」

「ずいぶん、横暴な言い方ですね。ちょっと聞いただけじゃないですか」

「いいか、余計なことは聞くな」

「でも」

「もう、口を開くな」

黙れ!とでもいうように沢田課長は、私の前に近づいてきて鋭い瞳で私を見おろした。
「ココアが好きなんたよな?」

「はい、そうです」  
「なら、それでいいだろ。あったかいうちに飲め」

見上げた沢田課長は怒った様子でもなく、ため息混じりに「あーあ」と、小さく言ってから私の頭に手を軽くのせ、くしゃっとしたあと、撫でるようにして乱れた髪を直してくれた。

沢田課長は、口角を上げなんとも言いがたい、戸惑っているような照れたような表情をしていた。

その笑いかたに、私の胸は、きゅんとなった。

なんだか、こっちまで照れたようになってきてしまう。


「なれないことは、するもんじゃないな、ったく」
沢田課長は自嘲ぎみに笑って、また廊下を先に歩き始めた。

え?
なれないことは?

私の思い違いでなければ、なんだか相当へんなことになってきた気がする。

沢田課長は何かのついでに私へ渡すココアを買ってくれていた。出勤時についでに買ったという割には、コートも着ずに下にいたのだ。

私に温かいココアを渡すために一階で待ってた?

まさかねー、売れっ子漫才師のライブ前に会場の外にいる出待ちの若いファンじゃあるまいし。だけど、ついでにの割には、沢田課長は手ぶらで、なにも買った様子がなかった。

それに、余計なことは聞くなと言われた。



私は早くも冷えてきたココアの蓋を開け、廊下で一口飲んだ。

甘くて、ぬるいココア。

それがなぜだかわからないが、私をかなり温かい気持ちにさせてくれていた。

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