《クールな彼は欲しがり屋》
本日は夜風が冷たく感じるでしょう
「この資料まとめたのって、誰?和泉?」
沢田課長のよくとおる声が私のデスクにまで聞こえていた。
沢田課長が尋ねていたのは、和泉さんだ。
沢田課長のデスクの前に立ち和泉さんの背中は、肩を落としてうなだれて見える。
もしかしたら、今和泉さんが言われてるのって私がまとめた資料かもしれない。
午前に和泉さんから資料をまとめる仕事をふられたのは、私だった。
立ち上がりかけた私の手は、隣の席にいた佐野さんにつかまれていた。
「かばわれておきなさいよ。彼は怒られ慣れてるんだから」
「でも....なんか申し訳ないです」
「いーのよ。和泉くんは、いろいろ経験した方がいーの。世の中に揉まれた方が彼の為になるし、下の立場での経験は上になったら貴重な経験になるから」
「上になったらって?」
「あー、うん。ほら、和泉くんだって昇進したりするでしょう。たぶん....ねっ?」
確かに、和泉さんだって、ずっと平社員のままではないだろう。
「気にしないことよ。春川さんは営業に来たばかりなんだから、わからないことがあっても当然よ。それとも直々に沢田課長から怒られたかった?あ、春川さんがやった仕事なら沢田課長も怒らないかな?」
いたずらっぽい目を向けてくる佐野さん。
佐野さんのこの目は、やはり私と沢田課長が特別な仲だと思っている目だ。
「や、やっぱり、私が作ったと言ってきます!」
私は勢いよく立ち上がり沢田課長のデスクへと向かった。