《クールな彼は欲しがり屋》
「ずいぶん短期間で、先輩後輩がかばいあうくらいに仲良くなったんだなぁ、和泉」

少し嫌みめいた口調で言いながら、沢田課長は私と和泉さんを交互に見た。

それに対して、和泉さんは
「春川さんは優しい方なので勘違いして名乗り出てくれただけです。まあ、春川さんが優しいのは沢田課長の方がご存じでしょうけど」
おっとりと返した。


「俺?いやあ、どうかな。彼女は、俺には....あんまり優しくないから」
ちらっと上目遣いに沢田課長が私を見た。

「え、そうなんですか」
驚いた顔をしている和泉さん。


「ああ、そうなんだよ。可哀想だろ俺って。付き合ってるってのに」
その言葉を聞いて、なんだかわからないがホッとしていた。

付き合ってるって状態は、まだ健在みたいね。


「やっぱり、好きな女性には優しくしてもらいたいですもんね」
なんとなく大きな声で同調する和泉さん。

「そうだよな」
沢田課長は、私をチラ見しながら頷く。


「優しくなんて....どうしたらいいかわかりませんから」

「ほらな、和泉。春川は、常にこんな調子だ」


「特別どうこうじゃなくて、好きな女性が笑顔で隣にいてくれれば男は嬉しいもんだよ、春川さん」

笑顔で沢田課長の隣に?
難しい。想像すら難しい。

「簡単だろ?」
フッと笑った沢田課長。

「言うほど簡単じゃありませんよ」

「そうか?好きな相手を見ると自然と笑みがこぼれるもんだけどな」
沢田課長は、口角を上げ目を細めた。

笑ってる。

これは、自然とこぼれた笑み?

その顔を見たら、心臓がばくばくと大きな音を立てて、急に呼吸が苦しくなっていた。
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