《クールな彼は欲しがり屋》
買い物したら、必ず重い方を正史が持ってくれた。

でも、今はあの頃とは違うはずだ。

肩を並べて歩くことが、こんなにも切ない。

正史の持つビニール袋がカサカサと音を立てた。

「どうして、こんな場所にいたの?」

「ケイに会いに来たんだ。家に行く途中で会えて良かった」

正史のくしゃっとなる笑顔を久しぶりに見た。大好きだった笑顔だ。

「私に....会いに来たの?」
それ以外に正史が、この辺を歩いている理由はおもいつかなかったが、誤解したくなくて確かめてみた。

「うん、会いたくて」
その言葉に心がざわつく。会いたくて、会えなくなっていた人。

見上げた正史の横顔は、少し痩せたように見えた。


「..急にどうして?」

「うん、ケイに会わなくなってからさ、もう一年たつよな。俺もいろいろあって、それで良く考えてみた。...そしたら、本当に....なんか、今更なんだけど確かめたいことがあって....」
足を止めた正史が私にまっすぐ向いた。

見つめあっていたら、胸が苦しくなってきた。

確かめたいこと。
それはなんだろう。

初めて好きになって、ずっと大好きだった人。
ふられたけど、やっぱり好きだった。

最近まで、ずっと引きずっていた。忘れたくても忘れられない人。

「ケイ....俺さ」

真面目な顔をした正史が言葉を紡ごうとしていた。
それを聞く前に緊張していた。

早とちりかもしれない。
また、私だけが勘違いしてるのかも。

一年前もそうだった。

優しくて、いつも一緒にいたから告白しても受け入れてもらえる気になっていた。

でも、正史には別に好きな人がいた。
私の告白は、してはいけないものだった。あの告白のせいで私は正史と友達関係を続けられなくなったのだから。

正史を見上げながら、一年前を思い出して私の胸は切なさに傷んでいく。

正史が私のところに、わざわざ来た理由は『また友達に戻ろう』だろうか。それとも、もっと別な話?

「慶子」
と名前を呼ばれ私の肩は、誰かの手により後ろへ引かれていた。







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