《クールな彼は欲しがり屋》
「正史っ」
駅に近い銀行のATM前で正史の背中を見つけた。
振り返った正史の表情が私を見て明るくなったのがわかる。
「あれ、どうした?」
弾んだ息を整えて、正史の前に立った。
「話があるなら、聞いてこいよって....言われたの」
「彼氏に?」
私は、否定せずに頷いた。
「そっか。....元気そうで、良かった。ずっと気になってたんだ、ケイのこと」
「正史は、元気だったの?」
好きな人とは、うまくいったの?
付き合ってるの?
「うん、まあね」
「ね、なに?確かめたいことって?」
「ああ、うん」
正史は私から視線を外し商店街を見渡した。
「この辺も、一年しかたってないのに、変わったな」
確かに銀行のATMがある場所には、以前たい焼きやさんがあった。
その頃は、たい焼きをひとつ買って正史と二人で分けあって食べた。
「そうだね」
さっき正史と会った時は、驚いて心に余裕がなかった。でも、今は私の心のどこかに余裕が生まれている。
自分でも不思議だ。
正史を見ているうちに切なさが、段々消えて懐かしい気持ちが多くなってきた。
「二人で良く食べたよな。たい焼き」
「うん、そうだね」