《クールな彼は欲しがり屋》
「そう....なのかな」
「きっとそうだよ」
やっと、正史を微笑んで見上げられた。
遮断機かあがり、人や車が移動しだした。
「....なんか、ケイは大人の女になったな」
「今頃?もう、30なんですけど」
「そうなんだけど、なんか変わった。とにかく大人の女になったよ」
「そ、そうかなぁ、ははっ、ありがと」
「ケイ、俺たち、前みたいに....」
ためらいがちに正史が何かをいいかけ、私を見る。
「友達....だよ。私たち」
正史の瞳を見つめて微笑んで見せた。
ほっとしたように顔をくしゃっとさせて正史は駅の改札へ向かいながら手を上げた。
「ありがと。話せて良かった。もう一度彼女とも話してみるよ」
「うん」
「あと、彼氏にお礼言っといて。ケイと話させてくれてありがとうって。器のデカイ彼氏だな!俺も見習わないと」
見習う?
優しい正史が?
もしかして、短気なだけじゃなかったのかな、沢田課長って。
「ふふっ、いっとく」
手を大きくふり、正史を見送った。
正史に自分から友達なんて言えるとは思わなかった。
少しだけなのだけど、自分の中にゆとりが生まれていたから出来たことだ。
失恋を癒すには新しい恋をするしかない、そんな俗説がまんざら嘘ではない。
本当に悔しいのだけれど、そんな風に思える。
再び鳴り出した踏切。
下りてくる遮断機。
通りすぎる電車を見送っていたら、私は、ようやく一年前の自分にサヨナラを言えた。そんな気がしていた。