《クールな彼は欲しがり屋》
「沢田課長っ」
急いで走ってマンションの前に立っている沢田課長の所へ向かった。
沢田課長は、私の顔を見るなり文句を言い始めた。
「野菜が思いの外、重いぞ。捨てるわけにもいかないから慶子のマンションへ置いて帰ろうとしていた所だ。ちょうどよかった」
「案外、力ないんですね。野菜ぐらいで重いだなんて」
私は、沢田課長が持っているビニール袋へ手を伸ばした。
沢田課長はビニール袋を後ろに隠すように手をまわした。
「持ってほしいとは頼んでないだろ」
「はあ」
「ところで、どうする気だ?今日、すき焼きのリベンジするのか?」
「今からでもいいですか?」
「もちろん構わない」
偉そうな態度だ。
だが、すき焼きのリベンジがしたいと言ったのは私だから我慢しよう。
お腹はペコペコだ。
高級霜降り肉のためだ。多少、上司のしゃくにさわる態度は我慢しよう。
「じゃあ....中にどうぞ」
私は沢田課長の前に出て歩いた。
歩きながら、なんとなく緊張しているのを自覚出来ていた。
すき焼き。
リベンジは、すき焼きだけで終わるだろうか。もしかして、スケジュールぎっしりの沢田課長は、クリスマスイブではなく今夜、ついでに一年前の夜のリベンジもしてしまえと考えてはいないだろうか。
もし、そうなら....。
私は沢田課長をちらっと振り返ってみた。
バチッと目があった。
「なんだ?その目」