《クールな彼は欲しがり屋》
「沢田課長こそ、なんか胡散臭い目つきなんですけど」
「は?俺のどこがだ」
「あの、今夜は私だけのリベンジにさせてもらってもいいですか?」
「......」
「え、なんで黙ってるんですか?」
「何階だ?」
「2階です」
「何?2階なのにエレベーターに乗ったのか?!」
「沢田課長が先にエレベーターに向かっちゃったから。私は、階段でもよかったんですけど」
「先に言えよ。2階なら2階って」
「2階です」
エレベーターが階数を告げて、ドアが開いた。
先に降りた沢田課長に何かを言われる前に
「208です」
と部屋番号を告げた。
「何が」
「部屋番号ですよ」
「聞いてないだろ。慶子が先導すれば済む」
「わかりましたよ、先に歩きますから」
先に廊下を歩く私の後ろから沢田課長の靴音がついてくる。
沢田課長が持ってくれているビニール袋の音が、がさがさいっていた。
緊張してきた。
考えてみたら、正史以外の男性を自分の家に入れたことがない。それに、誰か人を呼ぶことを想定していなかったから、部屋が乱れている。
先に入って少し片付けないと。
気持ちが焦っていたときに後ろにいた沢田課長が、いきなり私の腕をつかんで引っ張った。
勢いよく引っ張られた私は、沢田課長のまん前に立って沢田課長の顔を見上げた。
何?
なんでいきなり引っ張るの?!