《クールな彼は欲しがり屋》
沢田課長の喉仏に目を奪われていた。
ごくり。
思わず生唾を飲み込む。
まさか、マンションの廊下で?
ちょっと待ってよ。
こんなところで、いきなり何する気?
ヌッと顔を私の顔の方に近づけてきた沢田課長。
沢田課長の目が私の目をじっと見てきた。
「さ、沢田課長、こんなところで....いきなり、な、なんですか!」
「なんでだ」
「え?なんでってこんなところで、なんかされたら私は困ります」
「なんかされたら、だと?」
沢田課長の眉間にしわが寄る。
それから、大きくため息をついた。
「ふー、期待させて悪いが、俺は廊下で慶子に何かするつもりはない」
「え、それじゃあ、なんで引っ張ったんですか?」
「それは、慶子が」
沢田課長は斜め後ろへ手を伸ばし、
「208号室を通りすぎたからだ」と
人差し指で今さっき通りすぎた部屋を指差した。
「あっ!」
緊張しすきて、自分の部屋を通りすぎてしまっていた。
「ごめんなさい。通りすぎてましたね、ははっ」
「なんのボケだ。まったく」
肩の力を抜いたような感じで、柔らかく沢田課長が笑った。
ほら、いつも笑ってたらいいのに。
私の部屋を指差していた沢田課長の手が拳を作り私の頭を軽くコツンとした。
「ドジ」
首をすくめた私の胸は、大きく跳ねた。
もう、30歳なのに、正史に大人の女になったと言われたばかりなのに、私の胸はまるで少女みたいに高鳴り、それからきゅんと縮まった。