《クールな彼は欲しがり屋》

ボタンをはずし終えた私は震えながら、ブラウスを脱ごうとしていた。肩を出して、するするとブラウスのそでから腕を抜く。

「やめろ」

椅子から立ち上がった沢田課長が、私の脱ぎかけたブラウスを元に戻すようにして肩にかけ、背中から私の身体を抱きしめた。

「やりすぎだぞ。未経験のくせに」

「でも、沢田課長もリベンジしたいんですよね?」

「ああ、でも、今日じゃない」

「どうしてですか。私の家に来ておいてキスだけで満足なんですか?」
女の家にあがって、男性はキスだけで我慢出来るのだろうか。
私は男性の気持ちがわからない。

「ああ、そうだよ。キスで満足してる。あと、慶子とすき焼きを食べられたし、こうして一緒にいられて満足してる」
私の前に来て沢田課長は私の表情をみている。
「そんなんで、男の人は満足出来るんですか?」

「慶子、男ってのをなんだと思ってんの?」

「わかりません。付き合ったことがないので、どうすればいいかも。どうしたら....沢田課長が喜んでくれるのかも」

「俺が喜ぶ?」

「だって、私のために沢田課長は、すき焼きの高級霜降り肉を用意してくれました。私のために寒い中、いつ戻ってくるかわからない私を待っててくれました。それに、私を正史のところへ行かせてくれて」

知らないうちに涙が頬を伝っていた。

「まさふみっていうのか、奴の名前」
沢田課長が指先で私の頬につたう涙をぬぐってくれた。その手のぬくもりが私には優しく感じられた。

「はい、正史が器のデカイ彼氏によろしくって言ってました」

「まさふみ、まさふみって、俺の前で他の男の名前を連呼するな」
ムッとしながらも沢田課長は私の髪をそっと撫でてくれた。
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