《クールな彼は欲しがり屋》
「やけになるな。俺は、沢田健太郎。俺のことは健太郎って呼べばいい」
健太郎?
沢田課長を名前で呼ぶなんてあり得ない。
「ハードルが高すぎます」
「また、ハードルか。大丈夫だ。慶子がいくつハードルを持ってきたとしても、俺が絶対に超えてやる」
また、絶対って言い切ってる。
現時点で私の前にいくつハードルが出てきてるかわかってないから、沢田課長は絶対超えてやるなんて簡単に言えるのだ。
「慶子、俺が一年前のリベンジしたい意味わかってないだろ?」
「初めてだからですよね。途中で終わった女が初めてでこころ残りだからですよね?」
「違う。好きだからだ。あの夜、慶子の純粋さに惹かれた。大切にしたいって本気で思った。あの夜から俺は始めるつもりだった。いや、新しい恋が始まったって思ってた」
新しい恋が始まる。
沢田課長も振られたと言っていたあの夜。
「それ、本当ですか?」
「ああ、嘘なんか言っても意味ない。どうせタブらかすなら、もっと若い子を狙うだろ。なんで、好き好んで30女に嘘をつく必要がある?」
「ひどい。30女だなんて」
「事実だろ?俺は事実しか言わない。好きな女には、喜んでもらいたいから高級霜降り肉を買ってきた。好きな女には後悔してほしくないから、昔の男のところへ行かせた。俺の器なんて小さいもんだ。内心ひやひやして心配してたんだからな」
「沢田課長がひやひや?」
おどおどしたり、ひやひやなんかとは無縁って人だとばかり思っていた。
「戻って来なかったらどうしよう、ばかなことしたかなって考えたりして。好きだから、慶子の姿見るまで慶子のことばっか考えてた」
「沢田課長....」