《クールな彼は欲しがり屋》
ゾッと血の気が引いた私の体に、どばっと血液が一気に戻ってきた。
赤面するほどに恥ずかしい!
なんでこんなことに。
葵は、なんで私を置いて黙って帰った訳?ひどい女だ。
私はカウンターのテーブルに置いていたスマホを手にした。
葵からラインが、白々しく何件かきていた。
『イケメン隊員が登場したから、葵隊員は帰りまーす』
『失恋を癒すのは、新しい恋しかない!』
『出会いは大切に』
出会い?どれが?
新しい恋?
はん、馬鹿げている。私は隣の男を見た。
確かに男は私好みの顔だ。
男は、
「もっと話せば?話の途中だったろ」
と言った。体の奥に響くような男の声にドキドキしてきた。男の声も私好みだ。
「いや、でも」
「高校の時に渡したバレンタインのチョコがどうのって話の続きからだ」
「うわっ、私、そんな話までしました?あの一体私は、あなたにどれぐらい話したんでしょうか」
不安と羞恥心が入り交じり、なにがなんだかわからなくなってきていた。
それから、男が私から聞いた私の恋話をすらすら暗記したように話した。更に恥ずかしさでいっぱいになると同時に悲しくなってきていた。
親友の葵には先に帰られるし、知らない男に自分の恋バナを詳しく話したりして。
最高に馬鹿げている。
落ち込んだ私に男は
「今更、恥ずかしがるな。もう、ほとんど概要は把握してるから」
「いやぁ、でも失恋話なんか聞いても貴方にメリットないですよね?」
「ある。俺も失恋したばっかで飲みたい気分だったんだ。そこへあんたの失恋話聞いて、あんたの方が切ないなって。俺のがマシだと思えたのは正直有り難い。思わぬ収穫だ」