イジワル同期の独占欲に火をつけてしまいました
 


もしかして、この席に拓海の彼女が座ったこともあるのかな……。
そんなことを考えた途端、胃のあたりがもやもやしてくる。

やっぱりあのまずい酢豚を食べたのが悪かったかな。
家に帰ったら一応胃腸薬を飲もう。
なんて自分に言い聞かせながら、妙な妄想を頭から追い出した。

「佳奈」

窓の外の景色をぼんやりとみていると不意に名前を呼ばれ、ドキッとした。
いつも拓海には『おい』とか『お前』とかぞんざいな呼び方をされることが多いから、急に名前を呼ばれると少し緊張してしまう。

「……なに?」

三回深呼吸をしたあと、平静を装って返事をする。

「お前の好きな男って……」

前を向いたままそう言われ、心臓がぎゅっと縮み上がった。


もしかして、私が拓海を好きだってバレた!?

私が助手席で固唾をのんでいると、拓海は車を運転しながら言葉を続ける。

「会社のやつなんだろ?」
「えっと……」

この質問は、ばれているのか? 誘導尋問なのか?

拓海の真意が測れずに口ごもる。


 
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