彼の甘い包囲網
「……何でも言うこと聞くって言ったよな?」


見惚れるような笑顔の奏多。


「まさか俺がお前を野放しにすると本気で思っていたのか?」


見掛けだおしの腹黒王子が形のいい唇から言葉を紡ぐ。


現在午後九時半。

私のレポートを添削し終えた奏多から差し出された一枚の薄い用紙。


「……何度も言ってるだろ?
……お前が離れていくのは耐えられない」


切なそうに潤んだ瞳を眇める奏多。

傲慢な態度から一転して、まるで恋い焦がれているかのように。


私の胸の下まである黒髪を長い指で一房掬って。

奏多はそっと唇を寄せる。

髪に鼓動があるかのように。

心臓が早鐘をうつ。

反射的に俯いた耳が熱い。


「お前は俺のものだから」

「……なっ!」

「……絶対に手離さない」


ねえ、奏多。

何処までが本気?

何処までが冗談?

その気持ちはただの執着じゃないの?




……私のことをどう想っているの?

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