彼の甘い包囲網
「何かあったら連絡して?
あ、でも連絡くれたら嬉しいかな。
楓ちゃんと二人で会いたいし」

有澤さんは名刺を取り出して、サラサラと裏面に自身の携帯番号を記入し、私に差し出した。

兄が有澤さんの荷物を下ろしている、見ていない隙をつくやり方に女の子慣れしているな、と直感的に感じた。

ニッコリと魅惑的な笑みを浮かべる有澤さん。

美形の微笑みは眼福だけれど。

「……連絡しませんし、二人で会うつもりもないのですが」

「アハハ。
俺、そんなに迷惑そうに断られたの初めてかも。
楓ちゃん、可愛いのに面白いね」

何処におかしい要素があるのか不明だけれど、有澤さんは楽しそうに笑っている。

「いえ、全く。
むしろ、さっき知り合ったばかりなのに誘われても困ります」

真面目な思いで返事をしたのに。

「本当にもっと早くに知り合いたかったな。
楓ちゃんに執着する男の気持ちがわかるよ。
本当に可愛い」

何故かとても嬉しそうに言われてしまった。

「おい、有澤。
早く降りろよ」

兄の声がして。

有澤さんはゆっくりと車から降りた。

「本当にデートしようね」

「しません!」

余計な一言を残して。
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