彼の甘い包囲網
「……お前、有澤はやめとけよ」

有澤さんと別れ、二人になった車内で、柊兄が突然言い出した。

「はあ?」

「いや、だから有澤とさぁ」

「この短い時間で私が有澤さんを好きになったとでも思うの、お兄ちゃん?」

嫌味のようにゆっくりと話せば。

兄はチラリとバックミラー越しに私の顔を見た。

「いや。
何かお前気に入られてたぽいからさ。
アイツ、よくわからないとこでああいうスイッチ入るからなぁ。
でもアイツには本命がいるし。
まあ、お前も似たようなものか」

「だから好きじゃないって!」

力一杯、否定する。

「ああ、わかったよ。
そういやお前、帰ってきたこと奏多に言ったのか?」

信号が赤になった途端、兄は私を振り返った。

「……言ってない」

「は?」

「……だって最低限しか連絡しない約束だから」

「お前らまだそんなことしてんの?」

「まだって、ちゃんとした約束だもん!」

「イヤイヤ、お前戻ってきたのに、それを奏多に話さないとかおかしいだろ!
そもそも奏多と充希に内緒で迎えに来いって言う時点でおかしいと思ったんだよ……」

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