彼の甘い包囲網

……奏多が怒ってる……！

私の脳が奏多の怒り具合を認識する。

綺麗な顔立ちの人が怒ると凄みが増す。

本能的に布団に潜り込んで回避しようとした私に。


「……楓？
それはダメ」

恐らく絶対零度の微笑みを浮かべながら話しているのだろう。

冷え冷えした声が布団の中に届く。

容赦なく布団を剥がれた。


……やっぱり。

目が全然笑っていない。

殺伐とした雰囲気を感じる。


「……俺、怒ってるんだけど？」

知ってる、知っています！

「……俺が何で怒っているか、わかる？」

ジ、と私の思考まで暴くかのように奏多が静かな怒りを籠った瞳を向けてくる。

「……私が酔っぱらっちゃった、から？」

小さな声で俯きながら、思い付く理由を答える。

半分正解、と奏多が薄く嗤う。

声音はどこまでも冷たい。

「楓、酒弱いよな？
今回はたまたま皆が一緒だったからよかったけど。
俺が迎えに行って間に合ったからよかったけど。
そうじゃなかったらどうする？
楓は可愛いから、悪い男に持ち帰られる可能性だってある。
そうしたらどうなる？」


酔っ払って意識のない女が悪い男に連れ去られたら。

何があるか、奏多が言わなくてもわかっている。

取り返しのつかないことにだってなりかねない。

それ以外にも。

急性アルコール中毒等、お酒が絡んだら大変なことはいくらでもある。


奏多が怒る理由。

それは私への心配。


「……ごめんなさい。
心配、かけて」


私は顔を上げて奏多に謝罪した。


奏多の瞳はまだ厳しさを残している。

フゥ、と奏多は小さく息を吐いた。

奏多が纏う怒りの膜が少し緩んだ。


「……本当にわかってる？」

「……うん。
危険意識が低かった、です。
紗也や鈴ちゃんが一緒だから大丈夫って思ってた。
……これからは気を付ける、ごめんなさい」


項垂れて謝罪する私に。

奏多はフワリ、といつも通りの微笑みを浮かべてくれた。

「ヨクデキマシタ。
楓が分かってくれたらそれでいい。
……怒ってごめん、な」


最後は申し訳なさそうに言って、私の額に口付けをした。


「……ううん。
本当にごめんね」

私は自分の浅はかさを恥じ、唇を噛み締めた。

社会人になったにもかかわらず迷惑と心配をかけてしまったことが申し訳なかった。