彼の甘い包囲網
「楓。
頭痛はどう?
何か飲む?」

いつも通りの口調で奏多が私に話しかける。

「あ、うん……大丈夫だと思う……起きる……」

そう答えた私の背中を支えて、奏多が私を起こしてくれた。

その時になって。


私は自分がピンクと白のフワフワ、モコモコした可愛い部屋着を身につけていることに気付いた。

サアッと血の気がひく。

さっきとは違う意味で。

「か、奏多……?
私、着替えて……」

奏多は見惚れてしまうくらい艶やかな笑みを浮かべる。


「うん?
その部屋着似合ってる」

「ち、違う!
わ、私、昨日ジャケット……」

昨日は仕事帰りだった。

きちんとジャケットを着てグレンチェックのパンツを履いていた。

「ま、まさか……」

奏多は相変わらず何かを企んでいるような綺麗な笑みを浮かべている。

この部屋には奏多しかいない。

紗也が一緒に帰宅して着替えさせてくれたとは考えにくい。

ということは。

「み、見た……?」

それこそ文字通り真っ赤な顔になって、消え入りそうな声で奏多に尋ねた。

ど、どうしよう……!

昨日私、どんな下着だった?

いや、それよりも足とか……お手入れしていない!

「アハハハハ!」

私は真剣なのに奏多はいきなり爆笑した。

理由がわからない私はキョトンとして奏多を見つめる。

「あー、可笑しい。
ごめん、楓。
楓の反応がもう本当に可愛くて……!
俺にたべられちゃったかも、じゃなくて着替えを見られたかも、のほうを気にするなんてさ……!」


奏多の涙交じりの笑い声に私の顔が更にカアアッと熱をもつ。

そ、そうか。

今さっきお持ち帰り、とか何とかの話をされたばかりだったのに!

私ってば何て色気がない、というか危機管理意識が低い……。

いやいや、そうではなくて。

奏多がそんなことを言い出すってことは……え、まさか?!

奏多と一線を越えたってこと?

そう言えば起きた時、奏多、私の隣りに眠っていたような……。

「う、嘘でしょ?!」


今頃になってパニックと羞恥が襲ってきて私は頭を抱えた。

で、でも。

奏多と私は付き合っているから、そうなってもおかしくはないわけで……え、でも何の心構えもなく?
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