彼の甘い包囲網
その日から。

奏多の私への距離が近づいた。

鈍感な兄でさえ気付く位に。

ちなみに充希くんはいつもと変わらない。


今日も柊兄の部屋にやって来た奏多と充希くんに、兄は悪態をつく。


「……なあ、何でお前ら下の名前で呼びあってんの?」

「そう決めたから」

「……なあ、何でお前ら、手、繋いでんの?」

「楓が可愛いから」

「はあ?
まさか、お前、楓に手を出したわけじゃ……!」

「いや、柊。
いくら奏多でもお前の妹にホイホイ手を出すわけないだろ」

よくわからないフォローをする充希くん。

「そっか、そうだよな……いくらお前でもな……」


安心したような表情を一瞬浮かべた兄に。


「楓がもう少し大人になってからにするから、安心しろ。
今は囲い込むだけだ」

「はあっ?!
何を?!
何をするんだよ?!」


冗談とも本気ともつかないことを言い放つ奏多。

充希くんは冷ややかな瞳を奏多に向ける。


「な、楓?」


そう言ってママに頼まれてお茶だしをしていた私の手を引いて、ベッドに座っている奏多の膝に座らせる。

「えっ……!」

奏多の体温とシトラスの香りが私を包む。

ブワッと身体の熱が上がる。

奏多の長い腕が私のお腹にスルリと巻き付く。


「離れろっ、奏多!」


兄が焦る。

奏多はそんな私達を見てクスクス、イタズラっ子のように笑っている。

ああ、もう私で遊ぶのはやめてほしい。


「お前、来月から留学だろ?
楓で遊んでる場合じゃねぇだろ」



突然の柊兄の言葉に。

気持ちがズシリと沈んだ。

ツキリ、と胸に走った痛みの理由が見当たらない。
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