彼の甘い包囲網
「……ああ、そうだな」
表情も変えず淡々と返事をする奏多に。
胸が軋む。
顔が強張る。
「……塾行ってくる」
独り言のように呟いて、奏多の腕を無理やり引き剥がして柊兄の部屋を出た。
入学後、通い始めた塾の鞄を掴んで外に出る。
冬の乾いた風がビュッと顔に当たった。
温かさに慣れていた身体にジワジワと寒さが押し寄せる。
まるで今の私の心の中のようで。
手袋を忘れてしまった手先は少しずつ冷たくなる。
冷たい風は容赦なく私の乾いた心を抉る。
抉れた心はヒリヒリと痛みを訴える。
塾にはまだ早い時間だったけど、奏多の顔を見たくなかった。
そう。
奏多は来月からいなくなる。
顔を合わせることも言葉を交わすことも。
間近でその声を聞くことも。
かなわない場所に行ってしまう。
わかっていたことなのに。
四年は長い。
四年は人を変えるのに十分な時間だ。
四年前の私はまだランドセルを背負っていたし、この街には住んでいなかった。
奏多の存在さえ知らず、今の時期は学校行事の冬のマラソンが嫌で駄々をこねていた。
その頃の私は今の私のことなんて想像もできなかった。
これから四年後。
私はもうこの街にはいない可能性だってある。
奏多だって私を忘れてしまっているかもしれない。
ズキン、と胸が疼く。
痛みと同時に叫び出したいような、泣きたいような気持ちが込み上げる。
どうしてなのか、わからない。
何がショックなのか、何故こんなにも心が重たくて苦しいのか。
どうしてこんなに心細いのか。
こんな気持ちは初めてでわからない。
こんな気持ちは知りたくなんか、ない。
表情も変えず淡々と返事をする奏多に。
胸が軋む。
顔が強張る。
「……塾行ってくる」
独り言のように呟いて、奏多の腕を無理やり引き剥がして柊兄の部屋を出た。
入学後、通い始めた塾の鞄を掴んで外に出る。
冬の乾いた風がビュッと顔に当たった。
温かさに慣れていた身体にジワジワと寒さが押し寄せる。
まるで今の私の心の中のようで。
手袋を忘れてしまった手先は少しずつ冷たくなる。
冷たい風は容赦なく私の乾いた心を抉る。
抉れた心はヒリヒリと痛みを訴える。
塾にはまだ早い時間だったけど、奏多の顔を見たくなかった。
そう。
奏多は来月からいなくなる。
顔を合わせることも言葉を交わすことも。
間近でその声を聞くことも。
かなわない場所に行ってしまう。
わかっていたことなのに。
四年は長い。
四年は人を変えるのに十分な時間だ。
四年前の私はまだランドセルを背負っていたし、この街には住んでいなかった。
奏多の存在さえ知らず、今の時期は学校行事の冬のマラソンが嫌で駄々をこねていた。
その頃の私は今の私のことなんて想像もできなかった。
これから四年後。
私はもうこの街にはいない可能性だってある。
奏多だって私を忘れてしまっているかもしれない。
ズキン、と胸が疼く。
痛みと同時に叫び出したいような、泣きたいような気持ちが込み上げる。
どうしてなのか、わからない。
何がショックなのか、何故こんなにも心が重たくて苦しいのか。
どうしてこんなに心細いのか。
こんな気持ちは初めてでわからない。
こんな気持ちは知りたくなんか、ない。