彼の甘い包囲網
「やだ!スッゴいカッコいい!」

「誰?
誰、あの人!」

「誰かの彼氏?」

「私知ってる!
あの人スッゴい有名な人だよ!
南野高校の……」



キャーキャー騒ぐ女の子の声が切れ切れに聞こえて。

紗也がグイッと私を前に押し出した。

ニッと満面の笑みを浮かべて。



「間違いなく楓絡みよ。
じゃ、また明日ね」


拓くんと手を繋ぎながら、紗也はヒラヒラと手を振った。


「えっ?
ちょっ、紗也?」


思いの外、大きな声が出た。

その刹那。


「楓!」


名前を呼ばれた。

同時に握られた手。

伝わる温もり。

シトラスの香りが仄かに薫る。

斜め右を見上げると、奏多がいた。


「授業お疲れ様。
迎えに来たから帰ろう」


極上の蕩けそうな笑顔。

色素の薄いサラサラの髪が揺れる。

数時間前の淡々とした表情も声も嘘のように。

甘い声と優しい紅茶色の瞳が私を見つめる。


「……何で?」


状況に付いていけず、固まる私。

周囲から好奇心に似た視線と悲鳴が聞こえる。


「会いたかったから、話したかったから。
迎えに来た。
おいで」


フワリと柔らかく、甘く微笑んで。

奏多は私の頬を包むようにスッと撫でた。

< 18 / 197 >

この作品をシェア

pagetop