彼の甘い包囲網
「蜂谷と姉との婚約は美坂の多くの親族、関係者が望んでいる。
姉は有力な候補だったから。
今回の参入は姉との婚約を見据えて、どんな条件でもウチは受諾するんじゃないかとまで言われている。
既に二人は結納も済ませたなんて噂されているよ。
蜂谷自身はアメリカだから否定しようもないし、姉は否定しないだろうからね」

血の気がひいた。

私が思う以上に、ううん、私の手なんかには負えないくらい大きな話で。

改めて奏多の立場、蜂谷グループの偉大さを感じた。

勿論、瑠璃さんの立場も。

私みたいな一人の会社員に出来ることなんて何もない気がする。

足元が覚束無い。

どうしていいのか全くわからない。



それでも。

私は決めたのだから。


ギュッと拳を握る。

手は冷たくなって震えてる。

泣き出したいくらいに不安は募る。


それでも。

逃げない。

奏多を信じるって。

俺を信じろと言った奏多を信じるって決めた。

アメリカで戦っている大好きな人を守りたいと、強くなりたいと思ったから。


「……大丈夫、楓ちゃん?」

「だい、じょうぶ、です。
……私は奏多を信じて待っています。
負けたく、ないんです」

顔をあげて真っ直ぐ有澤さんを見る。


私の反応が予想外だったのか、有澤さんは少し目を見開いた。

「……何か別人みたいだね、楓ちゃん」

「そんなこと、ないです。
今でも出来るなら逃げ出したいです。
だけど、決めたので……負けません。
有澤さん、教えてくださってありがとうございます」

「……うん。
また何かわかったら言うよ」

「ありがとうございます」

ペコリ、と深く頭を下げて。

資料室に居た言い訳のために杏奈さんに言われた通り、ファイルを一冊持って資料室を後にした。
< 180 / 197 >

この作品をシェア

pagetop