彼の甘い包囲網
昼休み。

杏奈さんに外で食べないか、と誘われた。

柊兄に外出禁止を言われているわけではない私は快諾した。


最近オープンしたばかりの会社近くにあるベーカリーカフェに向かう。

モノトーンに纏められたシックな外観に、大きなガラス窓。

広い店内には所狭しとたくさんのパンが陳列されている。

どれも美味しそうで目移りしてしまう。

迷いながらパンを選び、レジで私はミネストローネとアイスカフェオレを、杏奈さんはクラムチャウダーとアイスコーヒーを注文した。

奥にある食事スペースはピークを過ぎたのか、人影はまばらだった。

通りに面した日当たりのよい窓際席に座って、食事を始めながら私は杏奈さんに話しかけた。


「奏多と話せました」

「そうなの?!
よかったぁ」

杏奈さんが心底安堵したような表情を見せた。

それから私は奏多と話した内容を伝えた。

有澤さんから今朝聞いた話を杏奈さんは既に知っていた。


「瑠璃は、本当は優しい子なのよ。
……庇うわけじゃないけど、私が小さい頃から知っている瑠璃ってあんな嫌な態度の子じゃないの。
瑠璃と涼もそれなりに仲の良い姉弟関係だったから早く元に戻ってほしいわ」

言いにくそうに話す杏奈さん。

「すみません……」

「どうして楓ちゃんが謝るの?
楓ちゃんは何も悪くないわ。
本当は誰も悪くないのよね、ただやり方を間違えたり、方向を間違えて、ボタンをかけ違えただけ」

杏奈さんがは寂しそうに微笑んだ。

私は小さく頷いた。
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