彼の甘い包囲網
「あんな真っ青な顔されたら心配になるに決まってるだろ?
俺がどれだけ楓を見てると思う?
お前の前で柊に言われて……悔しかったんだ、ごめん。
四年、待ってろ。
親父に言われたカリキュラムをこなして帰ってくる。
だから、お前は俺以外の男のものに、絶対になるな」


何処までも俺様な奏多の言葉に。

呆れを通り越して笑いたくなった。


……そう、奏多は実はこういう人だった。

最初に出会った時は優しいお兄ちゃんみたいだったのに。

完璧な王子様みたいだったのに。

本当はびっくりするくらい唯我独尊。

でも誰よりも私に優しくて甘い。


ほら、今も。

偉そうに言いながら。

私の髪をすく手は壊れものを扱うように優しくて。

私を見つめる瞳は泣きたくなるくらいに甘い。


あんなに痛かった胸が今は違う痛みに苛まされる。


「……待ってろ。
四年間会えなくなるだろうけど、連絡する。
ちゃんと監視も置いていくから」


甘い言葉の最後は物騒だけれど。


私を見つめる瞳が熱い。

焦げ茶色の瞳に焦燥の色が滲む。

真っ直ぐな視線は、待たない、と私が軽口を叩くのを拒む。


「……待ってろ」


言葉とともに奏多の綺麗な瞳が閉じられて。

私の唇に奏多の唇が優しく触れた。
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