彼の甘い包囲網
「ねぇ、もうそろそろじゃない?」


ゴールデンウィークも明け、そろそろ梅雨入りが始まりそうな六月初旬の教室で。

帰り支度をしていた私に紗也が話しかけた。


「何?
何の話?」


入学後、友人になった早見鈴ちゃんが興味津々といった様子で尋ねてきた。

鈴ちゃんは身長百五十六センチメートルの私と身長が変わらない、小柄で可愛らしい女の子だ。

ただ、その外見からは想像がつかないくらい、好き嫌いのハッキリとした性格をしている。


「ほら、例の蜂谷さん」

紗也が訳知り顔で答える。

「ああ、成程」


入学してすぐに意気投合した私達三人は色々な話をしていた。

その中で『好きな人』という項目があり、奏多の話になったのだ。

奏多は私の『彼氏』でも『好きな人』でもない、と否定したのだけれど。

二人には生ぬるい視線と受け流す返事しかもらえなかった。



「四年、だっけ?
本当に何の連絡もないの?
あり得なくない?
ってか、律儀に待っている楓ちゃんは本当に一途だよね。
楓ちゃん、美人だしモテてるのに、心配じゃないのかな?
よく四年も放置できるよね」

「放置って……一途でもないし、待っていないし、美人じゃないし、モテていません」
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