彼の甘い包囲網
「出た。
楓の異様に低い自己評価と全否定癖」

「人のことには公平な判断ができるのにね、何で自分のことだけ、そんなグチャグチャの低評価なの、楓ちゃん?」


私そっちのけで話す二人を無視して帰り支度を続ける。



奏多は音信不通なわけではない。

柊兄にはメールや、電話等の連絡があるらしい。

私にだけ、音信不通なのだ。



兄には、お前から連絡がないって奏多が気にしていたぞ、とか言われるけれど。

そもそも連絡するって言ったのは奏多で。

彼女でも何でもない私が張り切って連絡できるわけがない。

そんなのただの勘違い女子だ。

私は待ってろ、って言われただけ。

キス、されただけ。

……ただそれだけだ。


ただそれだけだって、わかっている。

わかっているのに考えてしまう。


奏多の気持ちがわからない。

好きだって言われたわけじゃない。

付き合っているわけじゃない。


四年間考え続けたけど、答えは出なかった。

私が立ち止まっている間に時間は確実に流れている。



柊兄には連絡を定期的に取っているのに、奏多は私と連絡を取ろうとしない。

この四年間で一度も。

奏多は私からの連絡を待ってなんかいない。

私を大切になんて思っていない。

ただからかわれただけ。

わかっているのに。



幾つもの『どうして』が私を四年間、苛み続ける。


どうして抱き締めたの?

どうして待ってろ、なんて言ったの?

どうしてキスしたの?

どうして……連絡してくれないの?


私は一途でも何でもない。

ただ、どうしていいかわからずに立ち竦んでしまっているだけ。

自分の気持ちを持て余しているだけ。


奏多のことなんて、好きじゃない。

奏多に恋なんてしない。

そう言い聞かせて。

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